「蒼汰……。
蒼汰っ!」
エレベーターを降りてきた友人に、蒼汰は抑えた声で呼び止められた。
「おお、新田。
どうした」
と振り向くと、新田は手招きをして言う。
「どうしたじゃねえよ。
お前、総務の雨宮凛子と結婚するって言ってたよな」
「ああ。
月末は空けておけ。
うまい料理を食わしてやる」
「いや、それ、料理食わしてやる会じゃなくて、結婚式じゃねえのか」
と言ったあとで、更に声を落とすように、口の横に手をやり、身を屈めてきた。
なんだ? と顔を寄せると、何故か新田は赤くなり、身体を起こす。
「いや、なんかお前に近づかれると、男の俺でも緊張するわ。
よく平気だな、雨宮凛子。
そうだ。
それそれ、さっきさ、俺、お前見習って、健康のために、ちょっと階段使ってみたんだよ」
いや、それ、健康のためじゃないんだが、と思ったが、口を挟まないでおいた。
「そしたら、聞こえてきたんだよ。
階段って小声でも上からとか下からとか、よく響くじゃん。
上村さん、雨宮凛子にちょっかいかけてるみたいなんだけど、大丈夫か?
そういえば、今日も食堂で一緒だったし」
と言うので、
「それは見た」
と言った。



