密室の恋人




 今日の屋上は、人の気配がなかった。

 それもそうだ。
 今日は、風が強くて寒い。

「あのー、今思ったんですけど。
 さっき会ったときに渡してくれればよかったんじゃないですかね?」

 寒さに身を縮めながら、凛子が言うと、
「此処に来いって、果し状寄越したの君じゃない」
と弥は言ってくる。

 だから、果し状じゃないですってばー、と思っていると、
「はい」
と上着をかけてくれた。

 一気に背中が暖かくなる。

「あ、ありがとうございます。
 って、上村さんが寒いじゃないですか」

 そう言い、返そうとして、ふわりと上着から香った匂いに、思わず、袖口を鼻先にやってみた。

「上村さんって、いつもいい香りがしますよね」

 嫌味でない程度にふんわりと。

 香水の類ではないようだが、と思っていると、弥は、
「ありがとう。
 でも、そう思うのって、凛子ちゃんが僕を嫌ってない証拠だよね」
と言ってくる。

「なんでですか?」

「嫌な人だと、その匂いまで嫌になるもんだよ」

 手すりに頬杖をつき笑う弥に、
「そうですね。
 上村さんのこと、別に嫌いじゃないですよ」
と言うと、目を見張る。