密室の恋人

「いいです。
 とっていりません。

 狂犬に噛まれたとでも思います」

「誰が狂犬だ。
 まあ、ちょうどいいから、結婚しろ」

「あの……なにもちょうどよく思えないのは、私の気のせいですか?

 大体、順序おかしいですよ。

 私、貴方のこと、そんなに知らないし、貴方も私のこと知らないでしょう?」

「いや、知ってる」
と蒼汰は言った。

「エレベーターでだけ、俺をじっと見つめるおかしな女で。

 顔は可愛いが、こちらが言った分だけ言い返してくる。

 子供みたいだが、嫌味はない。

 それだけ知ってれば充分だろう。

 お前は俺のなにを知らない?」

 そう訊いてくる。

「な、なにも知りません。
 なにもかも知りません。

 昨日、ようやく、電車と船と工場が好きって知っただけなのに」

「それだけ知ってれば上等だろう。
 社内にそこまで知ってる女は他に居ないぞ」
と言ってくる。

 それでも困った顔をしていると、
「……どうしたい?」
と蒼汰は訊いてきた。

「俺と結婚するには、あと、なにが足りない?」