密室の恋人

「じゃあね、園田」
と弥が手を振ると、千尋はなにも言わずに、弥の横をすり抜け、上がっていった。

 ちょっと怒っている風にも見えたが、その表情が妙に気になった。

 少し泣きそうなようにも見えたからだ。

 そのまま、階段の手すりと手すりのすき間から、上を窺っていたが、やがて、千尋の姿は廊下の方に消えた。

 誰かに肩をつつかれる。

 振り向くと、弥が立っていた。

「全部聞いてた?」

「全部じゃないけど、聞いてましたよ。
 なにが断らないけどなんですか」

 断ってください、と訴えると、

「それ嫉妬?」
と訊いてくる。

「なわけないじゃないですかっ」

「面白くないねえ」
と弥は肩をすくめて見せる。

「千尋さんの気を引くのに私を使わないでください」
と言うと、はは、ごめんごめん、と笑っている。

「大丈夫だよ。
 園田はそれで嫌がらせとかするような女じゃないから」

「それはそうなんですけど」

 せっかく和やかにやっているのに、給湯室の雰囲気が険悪になったらどうしてくれる、と思っていた。