密室の恋人

 向いてくれてよかった、と思っていた。

 一瞬、蒼汰の顔の後ろ。

 運転席の窓にあの人の姿が映った気がしたからだ。

 それに表情を変える自分を見られなくてよかった、と思う。

 ぼんやりとしか見えなかったが、窓に映った顔は、初めてこちらを向いていた。

 蒼汰とは全然違う顔だったが、あの人だと、何故か凛子にはわかった。

 少し雨が降り出したようだ。

 水滴に街明かりが滲んでそう見えたのだと思いたい。

 その景色を見ながら凛子は言った。

「蒼汰さん」

「ん?」

「蒼汰さんは、私を守ってくれなくていいです」

 なにっ? と蒼汰が赤でもないのに、こちらを振り向く。

「危ないですよ」
とたしなめたあとで、凛子は言った。

「蒼汰さんは私を守ってくれなくていいです。

 今は、私が貴方を守ります」

「凛子」

「その代わり、一生、私を守ってくださいね」

 蒼汰はなにも言わなかった。