密室の恋人

 


 マリーナに係留してあったのは、シャープで美しいデザインの船だった。

「えっ、これ、警察の船?」

「なんでだ……」
と似合わないコンビニのビニール袋を手に、蒼汰が呟く。

「いや、白黒だからですよ。

 っ言うか、格好いいですねー。

 私、今まで、こういう小型船舶を格好いいと思ったことないんですけど、これ、格好いいですよ」

 自分の船を褒められて、蒼汰はちょっと嬉しそうだった。

 その顔を見ながら、子供のとき、夏休みに取ってきたクワガタを褒められた侑斗みたいだな、とちょっと思った。

 操縦士に挨拶し、乗り込んだ船の中は、洗練されたホテルのようだった。

「バーカウンターがある!

 えっ。
 これ、なんでもありますよね?

 ベッドルームも何個かある。

 小洒落たシャワーもトイレもありますよ。

 大丈夫ですか?」

 言いながら、自分でも、なにが大丈夫ですか、なんだかわからなかった。

 こんなに部屋がいっぱいあって、大丈夫ですか?

 こんな落ち着いたカラーで揃えた素敵な家具がいっぱいあって、大丈夫ですか?

 金銭的に大丈夫ですか?

 こんな大きな船が個人で、運転できるんですか?

 考えながら、いや、どれも違うな、と思っていた。