「たぶん、蒼汰さんは、彼が亡くなったことを知っていると思います。

 中でなにがあったのかは知りませんが、蒼汰さんは、助けを呼べなかったことを自分のせいだと思ったのかも。

 罪の意識からか、蒼汰さんは、それを記憶から消したけど。

 ずっと気になっていたんだと思います。

 だから、この会社に来たんじゃないかと思うんです」

 社長はソファに背を預け、溜息をつく。

「確かに、もう少し早く、助けが呼べていたら違っていたかもしれないが。

 蒼汰だって、まだ子供だったんだ。
 インターフォンの位置が悪くて、手が届かなかったようだし。

 彼が元気なら、どちらかが踏み台にでもなって、手を伸ばすことも出来たんだろうが」

 不幸な事故だよ、と社長は言う。

「でも、蒼汰さんは優しいから」

 そのとき、携帯が鳴り出した。

 蒼汰の怒鳴り声が溢れ出す。

『凛子、てめーっ。
 何処行ってんだっ!』

 ……なにか、今言った言葉を撤回したくなってきたな、と思いながら、凛子は携帯を見つめる。