密室の恋人

「船?」
「船」

「結構遅い時間ですが、ナイトクルーズでもあるんですか?」

「大丈夫だ。
 俺の船だから」

「……誰が運転するんですか?」

「俺だろう」

 一級小型船舶操縦士免許を持っているという。

 工場に電車の車に、船か。

 ほんっとうに普通だな。

 いや、船は、なかなか持ってはいないものだが。

「電車でさえ、不審者が乗ってきたら危ないから、と止められる人が、船に乗ってもいいんですか」

「いきなり、船に不審者、乗って来ないだろう」

 頭の中に、潜水服を着て、酸素ボンベを背負い、ナイフを持ったびしょ濡れの男が乗船してくるところを思い浮かべた。

 笑ってしまう。

「お前、よく笑うな。
 酔ってないか?」

「酔ってませんよ~」

「……俺の経験上、酔ってない、と主張する奴は酔ってるが」

 まあ、いい、と食事を終えた蒼汰は立ち上がる。

「今日は呑んだから、運転できん。
 誰かに来てもらおう」

 やはり、船に乗る気のようだった。