誰も居なかった。

 後ろの壁に縋り立つと、エレベーターはすぐに動き出した。

 その振動を感じながら、扉を見ていた凛子は視線をふっと横に動かす。

 階数表示のボタンの前に彼は立っていた。

 こちらに背を向けて。

「凛子ちゃん、正解にたどり着いた?」

「……はい」

 グレーのスーツの男に向かい、凛子は言った。

 そう、と言い、男は上の階数表示を見たあとで消えた。

 最上階の扉が開く。

 秘書の谷村がこちらを見て言う。

「凛、どうしたの?」

 たまに秘書の用事を手伝うこともあるので、谷村とは結構親しくしている。

「社長に会いたいんですけど」
と言った瞬間、社長室の扉が開いた。

 自分がひとりで戻ってくると、わかっていたようだった。

「凛子くん、入りなさい」
と言われ、失礼します、と頭を下げた。