密室の恋人

「ま、とりあえず、今、この電車内で、一番おかしな人は貴方ですかね?」

 みんな疲れ切っている帰宅時間の電車で、こんな楽しそうなのは、この人だけだ。

「まあ、どうせ、出かけるのなら、楽しい方がいいですけどね」
と呟く。

 楽しそうな人と居ると、こちらも楽しくなってくる。

 いつもは早く着かないかな、と思う電車も、今日は少し違う乗り物のように感じられる。

 まるで、旅に出て乗るときみたいに。

「お前は、いつもデートするとき、何処へ行くんだ?」

 ふいに蒼汰がそんなことを訊いてきた。

「すみません。
 いつもデートはしていません。

 っていうか、したことありません。

 いや……それらしきものは、何度かあったんですが、はっきりデートしようと言われたことはありません」

 なんとなく誘われて、なんとなく出かけるみたいな感じだ。

「お前、付き合ってる相手が居ないのか」
と蒼汰は驚いたように言う。

「待ってください。

 今、現在、付き合ってる相手が居たら、貴方とこうしてるの、おかしいですよね?」
と言うと、少し考え、

「それもそうか」
と言う。