密室の恋人

 廊下に出て、振り返る気もない弥を見送っていると、後ろから、
「ねえ」
と声がした。

 お盆を手に千尋が立っていた。

 いつものような笑顔はない。

「あんた、上村となにかあった?」

 そう問われ、つい、つっけんどんに答えてしまう。

「千尋さん、関係ないじゃないですか」

 だが、言ったあとで、すぐに正気に返った。

「ああっ、すみませんっ。
 どうしても、上村さん側からばかり話を聞くので、上村さん寄りにっ」

 ……莫迦、と少しいつもの顔に戻って苦笑した千尋だったが、
「あんた、上村が好きなの?」
と訊いてくる。

「え? 蒼汰さんが好きです」

 あまりにも迷うことなくストレートに言ったせいだろうか。

 千尋は吹き出した。

 だが、お盆を持ってない方の手を腰にやり、真面目な顔でこう言った。

「だったら、上村には気をつけなさいよ。
 あいつ、無害そうに見えて、毒があるから。

 ほんと……いつまでも、しつこく、……気になるのよ」

 そう言った千尋は丸く小さなお盆で、コン、と凛子の頭を軽く叩いて行ってしまった。