密室の恋人

 弥を自分の方に向かい、思い切り引っ張った。

 弥の姿が消えたので、女は目標を見失い、扉にナイフをカン、と当てる。

 ぽつぽつとしか乗っていない乗客たちがこちらを向いた。

「凛子ちゃ……」

 言いかける弥の前に出て、凛子は女の手を掴むと、みんなに見えないように、その手を自分と女の陰に下げさせる。

「人に見られますよ、しまってください」

 弥は女の顔を見て、はっとしたようだった。

 低い声で女が言う。

「あんた、上村さんのなんなのよ」

「え?」

「この間も一緒に夜、電車に乗ってたわね。
 こんな時間に二度も二人で乗ってたら、付き合ってるの、確定よっ!」

 ひいっ。
 上村さんっ。

 なんでこんな思い込みの激しい人と付き合ったんですかっ。

 そのとき、扉が開いた。

 この扉から乗り降りする人は誰も居なかった。

 女は凛子を睨んだあとで、弥を見つめる。

 その顔を見ていた凛子は、ナイフを持たない方の女の手をつかんでいた。

「来てっ!
 逃げるのよっ」

 は? という顔を女はした。