密室の恋人

「でも、ありがとうございます。
 よく考えたら、上村さんには最初から、お世話になりっぱなしで」

「ほんとだよ。
 今度なにかで返してよ」

「いや、今、返してませんかね?
 この状況」

「いやいや。
 もうちょっと艶っぽいことで返してよ」

 それは無理です、と言っている間に、電車は着いたようで、
「降りるよ」
と言われる。

 そこは、この間降りたばかりの駅だった。

 おや? と思う。

 そして、いつか通った気がする道を歩く。

 なんとなく、目だけで、あのカレーの美味しい喫茶店を見上げると、弥が、
「あのさ。
 なにも突っ込まれない方が厭なんだけど」
と言ってきた。

「いやその、えーと……」

 なんと言えと言うのか。

 ストーカーみたいに、いつも千尋さんちの近くをうろついていて、見つけたんですか、あの喫茶店、とか?

 それとも、二人で来たことのある思い出の場所だったんですか、とか?

 どっちも口には出しづらい。

 ははは、とだけ凛子は笑ってみせた。

 が、誤魔化されるような弥ではない。

 やさしげな笑顔で突っ込みは厳しい。