密室の恋人

「行きましょうっ。
 まだ、ギリギリ間に合いそうですよ」

「間に合うか?」
と蒼汰が腕時計を見て言う。

「そうだ。
 侑斗!

 侑斗に戻ってきてもらえば」
と携帯を出したが、横から取られ、電源を切られる。

「そこまでしなくていい」

「だって、もったいないじゃないですか」

 ってか、電源まで切るな、と思った。

「わかった、わかった。
 キャンセルしとくから」

 いや、こんな出航時間ギリギリにキャンセルしても、なにも戻って来ないと思うけど。

 しかも、これ、個室だ。

 幾らするんだろう、とつい、チケットを見つめていると、いきなり、腕を引っ張られた。

「もういいから。
 とりあえず、電車で埠頭に行こう」
と蒼汰は言い出す。

 なにか楽しそうだ。

「あの、もう一回聞いてもいいですか?」

 構内を手を引かれて歩きながら言った。

「なんで、いきなり電車なんですか?」

 そもそも、この人、朝、車に乗ってきてなかったっけ? と思ったのだ。

「上村さんに、お前とデートするって言ったら」

 えーと。
 不用意にいろんな人に言って歩かないで欲しいんですが。