密室の恋人

 弥は一瞬、目を閉じ、……うん、と自分の内なる心と対話するように頷いたあとで、

「ありがとう、凛子ちゃん。
 今日は、凛子ちゃんが居てくれてよかった。

 君と話してるとね。

 なにかこう、子供の頃持ってたぬいぐるみのクマに、人には話せない話をしている感じなんだよね」
と言ってくる。

 女でないどころか、既に人でなくなってますね、私、と思った。

 歩いて店に戻りながら、
「上村さん、クマのぬいぐるみとか持ってたんですねえ」
と言うと、

「気になるの、そこ?」
と弥は笑っていた。

 千尋のざっくりした性格は好きなのだが、ときどき、考えなしに、弥にも、家族自慢をするときがある。

 もちろん、彼女に悪気はないし、弥もそこで引っかかりたくはないのだろう。

 それでも、自分を此処まで引っ張ってきて、話したということは、いろいろと思うところあったのだろうが。

 とりあえず、今、弥は笑っている。

 その横顔を見て、安堵していると、弥がこちらを振り向き、
「なに見とれてんの?」
と言ってきた。

「見とれてません」

「いやー、じっと見てたでしょ、愛をこめて」

「こめてませんー」

 そんな軽口を叩き合っている間に、店に着いた。