密室の恋人

「ところで、なんで突然、電車なんですか」

「いや。
 デートなんて、何処に行ったらいいのか、わからなかったから、家で相談したら」

「家で相談って、ご家族にですか?」

 おや、意外に普通な感じ、と思ったら、
「槙村に」
と言う。

「槙村さんって誰ですか?」

「うちに代々仕えている使用人だ」

 はあ、そうですか。

「親は滅多に見かけない」

 まあ、そんなものかもしれませんね。

 ご多忙でしょうから、と思った。

「船で食事はどうかと言うので、とっておいてもらったんだが、いまいち間に合いそうになくて。

 昼間、槙村がかけてきたから、そう告げたら、じゃあ、お嬢さんを走らせるのもなんだから、それはやめて、他のところにしましょうと。

 埠頭近くの知り合いの店なら、予約しなくても、いつでも入れてもらえるからーー」

「じゃあ、クルーズはキャンセルしちゃったんですね」

 ちょっと乗ってみたかったな、と思いながら訊くと、いや、と言う。

「ええっ。
 もったいないじゃないですかっ。

 チケット見せてください。
 出航時間は!?」

 呑気にチケットを出してきた蒼汰の手からそれを奪い取る。