密室の恋人

 



「じゃあね」
と凛子に手を挙げ、弥は給湯室を出て行った。

 本当に凛子ちゃんは一言多いな、と思う。

 だが、誰かに千尋の話を持ち出されるたび、顔には出さずとも、ちょっと不愉快になるのだが、今はそういう気分にはならなかった。

 むしろ、笑えてくる。

 凛子のあの、しまったっ、というおどおどした顔が愉快だったからかもしれない。

 エレベーターに向かうと、ちょうど、側の階段から蒼汰が下りてきた。

「あ、上村さん」
と言ったあと、蒼汰は、一瞬、微妙な顔をしたが、そう敵意むき出しな感じでもなかった。

 凛子が失言をしたものの。

 自分とのことを本気で疑ってなどいないからだろう。

 凛子が自分を好きだという自信があるからかもしれないと思った。

 軽く話して笑って別れたが、ちょっと気になることがあった。

 蒼汰からは、いつも爽やかないい匂いがする。

 今日もそれは変わりなかったのだが。

 なんだか嫌な感じがした。

 その匂いを嗅ぎたくないと言うか。