密室の恋人

 ほら、早く支度しろよ、と侑斗は急かしてくる。

「服を選んでやろうか?

 髪、綺麗にしてやろうか?

 お前、不器用だろう?」

 侑斗は家を継がないのなら、美容師か、メークアップアーティストになりたかったようだった。

「それは助かるけどさ」

「とりあえず、風呂にでも入ってろよ。

 俺が綺麗にしてやるから」

 なにか背中まで流してくれそうな雰囲気だった。

 そのとき、いきなり、携帯が鳴る。

「はい」
と出たのだが、また侑斗が横から口を出してきた。

「お前、まだそれなのか?
 買い換えろよ、スマホに」

 電話の相手は、蒼汰だった。

 予定より早く終わったと言う。

『駅で待ってる』

「埠頭って言わなかったですか?」

「なに文句言ってるんだ。
 素直に従え」

 ……あんた、何故、伊月さんの手先に。