密室の恋人

 いや、今更、蒼汰との結婚を引き返すつもりはないのだが。

 どんな服にも合いそうな、シンプルで落ち着いたデザインの時計だ。

 まだ薫子のぬくもりのあるそれを受け取ると、なんだか蒼汰を受け取った気がした。

 薫子がお腹を痛めて産んだ蒼汰のぬくもりを渡された気がしたからだ。

「あの、こんな高いものいただけません」
と言うと、

「構いません。
 貴女はうちの嫁なんですから」
と言う。

 薫子の中では、もう結婚することで、決定しているようだった。

 なにかこういうところ、蒼汰と似てるな、と思う。

 こうと決めたら、揺るがないというか。

「凛子さん、値段は関係ないのよ。
 いいものはいい。

 いいものを買って大切に長く使っていくことが大事なのよ。

 だから、質のいいスタンダードなものが私は好きよ」

 なんだか少しわかった気がした。

 蒼汰の育った環境は、自分とは全然遠い世界で、まったく理解出来ないだろうと思っていたのだが。

 きっと彼女たちの暮らしというものは、今、薫子が言ったようなことを実践しているだけなのだ。

 高くても良いものを選び、丁寧に手入れをし、使い込み、次の世代にそういった暮らしを伝えていく――。

 そう考えれば、彼らの暮らしぶりも理解できないこともない。

 ……でも、お義母さま、あのネグリジェはスタンダードじゃありません、と思ったが。