密室の恋人

「ですが、まあ、貴女は、蒼汰が自分で選んだお嬢さんだから」

 あの子を信頼しています、と薫子は言った。

 あ、いいなあ、と凛子は思った。

 こういうことを言える母親になりたい、と思った。

「でも、貴女にはひとつだけ言っておくことがあります」

 来たか、と身構える。

 呼びつけられたからには、薫子は自分になにか言いたいことがあるのではないかと思っていたのだ。

「槙村の話によると、蒼汰が一方的に貴女に言い寄っているようですけど。

 仮初めにも付き合っているのなら、この先、蒼汰と別れることは許しません」

 眼光鋭くそう言われ、固まる。

 薫子は、そんなこちらの態度など意にも介さず、ちらとテーブルの上に置いていた凛子の手を見て言った。

「あら、凛子さんはお仕事されてるのに、時計をなさらないの?」

「仕事の途中で水仕事するのに邪魔で」
と言うと、

「面倒でもしていた方がいいわよ」
と薫子は自分がしていた時計を外す。

「これ、貴女に差し上げるわ」

 差し出されたので、仕方なく受け取りながらも、凛子は心の中で絶叫していた。

 幾らなんですか、これっ。
 いりません〜っ。

 こんなものを受け取ったら、二度と引き返せない気がした。