密室の恋人

 そこで、凛子が背にしている通りの向こうを見、
「今日はえらく仕事終わるの早いんだな」
と言う。

 え? と振り返ると、蒼汰が横断歩道を渡ってくるところだった。

 なにか急いでいるようで、仕事が終わったという感じでもない。

「蒼汰さん、どうしたんですか?」
と訊くと、

「いや。
 ちょっとまずいことになって」
と言う。

「まずいこと?」

「いや、まずくはないんだが、突然だから」
と珍しく蒼汰の歯切れが悪い。

「実は、うちの親が凛子に会いたいと言ってきたんだ。

 槇村にお前のことを聞いたらしくて。

 今日は、もうちょっと、例の話を詰めておきたかったんだが」

 例の話とは、エレベーターの霊のことのようだった。

「ご両親と今日、会うんですか?」

「いや、母親だけ」
と蒼汰は言った。

 余計緊張しそうだ。

「俺にもついてくるなって言うんだ。
 すぐ終わるらしいが。

 向こうが店を指定してきた。

 まあちょっと、二人でなにか食べて来い。

 仕事が終わり次第、近くで待っててやるから」
と蒼汰は言ってくれた。