密室の恋人

 



 ふうっと意識が遠ざかったとき、幻が見えた。

 違う。
 記憶だ。

 過去の記憶。

 最初に蒼汰と出会ったのは、あのエレベーターだった。

 他に誰も乗っていなくて、彼は、一人俯き、エレベーターの隅を見ていた。

 どきりとするほど整った顔のその表情が気になって、乗りかけた足を留めると、彼はこちらを見上げ、

「さっさと乗れ、新入社員。

 どうした?
 お前が乗ったら、定員オーバーでブザーが鳴りそうだからか」
と威嚇してきた。

 あの表情の蒼汰から、威嚇して、小馬鹿にして笑うまでの時間は、一秒にも満たなかったように思う。

 だから、そのことは忘れていた。

 いや、記憶の表面では忘れていた。

 だけど、心はずっと覚えていたのだ。

 だから、好きだったのかもしれない。

 彼の横で、穏やかに微笑む蒼汰の顔が。

 あのときの蒼汰が、なにもかもから解放されて、微笑んでくれた気がして――。