密室の恋人

「いやっ」
と顔を背けた耳許で、彼は囁く。

「違うよね」
と。

「君は最初から蒼汰が好きだったんだよ。

 だから、僕は蒼汰の顔を利用した。

 君はただ、僕がしてるみたいに、蒼汰に普通に笑いかけて欲しかっただけなんだよ」

 思い返してみなよ、と強く凛子の手を押さえつけた彼は言った。

「どちらが先だったのか」

 どちらが先?

「君がエレベーターで蒼汰と口喧嘩するようになったのと。

 僕が蒼汰の横に現れるようになったのと」

「……あ、貴方は誰?」

「名前なんて、もう忘れたよ。
 僕は蒼汰に憑いてる悪霊だ。

 あいつが眠れないのは、僕のせい」

「どうして、今、そんなことを話すの?」

「だって、もう遅いから」
と彼は言った。