密室の恋人

 反射的に頭を押さえて、しゃがみ気味になると、少し先へ行った蒼汰が、
「なにしてるんだ?」
と言うのが聞こえた。

「いや、ゴミかけられるかとーー

 あっ、やめてくださいっ、伊月さんっ」

 蒼汰が自分の代わりに、ゴミを課の隅にある大きなゴミ箱に捨てている。

「やめてくださいっ。
 祟られますっ」

「なんにだ?」

 いや、おぼっちゃまにそんなことをさせたら、ご両親やご先祖様や、もしかしたら、居るかもしれない、先祖代々仕えている使用人の人たちに祟られる、と思ったのだ。

 なんだかんだで騒がしい蒼汰が帰ったあと、美晴たちが慌てたように寄ってくる。

「なに、どうしたのっ?
 凛、伊月様と出かけるのっ?」

「いや、ちょっと用事を頼まれて」

 嘘は言っていない。

 一ヶ月以内に結婚してくれ、という用事を頼まれたのだ。

「そうなのっ?」

「えーっ。
 なんの用事?

 うらやましいーっ」
と言っている彼女たちの後ろから、局長が手招きしていた。

 はい? と思い、側に行くと、局長が小声で訊いてくる。

「君、伊月蒼汰くんと付き合ってるのかね」

「いや……付き合ってるつもりはないんですが」