密室の恋人


 


「美味しかったですね、カレー」

 凛子は帰りの電車でそう言った。

 別に弥が勧めてくれたからではない。

 黒っぽいカレーも、煮込みすぎてバラバラになった肉も本当に美味しかった。

「今日はありがとうね、凛子ちゃん。

 少し、気が紛れたよ。

 ……どん底にも突き落とされたけど」

 わああああ。
 すみませんっ、と心の中で絶叫したのがわかったのか。

 横でつり革を持つ弥が凛子を見て、少し笑う。

 電車がゆるいカーブに差し掛かり、隣のおじさんがよろめいた。

 ドミノ倒しになりそうになったところを弥が抱きとめてくれる。

「す、すみませんっ」
と慌てて体勢を立て直す。

「いやいや。
 凛子ちゃんは、ぶつかられたら、簡単に吹き飛びそうだね」

 踏ん張らないと、と言われた。

「そういえば、不思議なんですけど。

 みんな、上村さんに触られても、嫌な顔しませんよね。

 あれって、下心がないからなんですかね?」

「え?
 あるよ」

 笑顔の弥は、あっさり言った。