密室の恋人




「おい、凛子」

「いきなり現れて、呼び捨てですかー」

 まだこっちは終わってないんだけど、と思いながら、振り向く。

 そろそろ終業時間だからというのではなく、なんだか、部署内がざわついていた。

 凛子の椅子の後ろに、いつの間にか、蒼汰が現れている。

「今日は早く帰れるはずだったんだが、ちょっと遅くなる。

 八時に埠頭に来い」

 果たし合いか? と言う口調だった。

「覚えてたんですね、昨日の話」
と横目に見ながら言うと、

「忘れるわけないだろう。

 お前にはどうしても、一ヶ月以内にーー」

 ぐはっ、と蒼汰は足を押さえてしゃがみ込む。

 真後ろに居る彼の足を、椅子のコロで轢いてやったからだ。

 此処で余計なことを言うな、と思いながら、
「八時に埠頭ですね。
 了解です」
と言って、足許のゴミ箱を掴む。

 帰る前に、捨てに行くためだ。

「細かい場所は、後で、地図を送るから」

「伊月さん、私、ガラケーです」

「買い換えろっ!」
と文句を言いながら、蒼汰が横から凄い勢いで、ゴミ箱を取った。

 やられるっ!