「お前、今、閉めるボタン、押しただろうーっ」
と言う声はすぐに上へと遠ざかっていく。

「なにやってんの、あんた、伊月様に……」

 一緒に乗っていた同期の田中美晴(みはる)が言う。

「いや、やられる前にやらねばと思って」

「なに此処、忍者屋敷かなにか?」
と美晴は呟いていた。

 そうなのだ。

 私の好きなあの人は、何故かあの凶悪な先輩に憑いているのだ。

 蒼汰の顔の横には、いつも、彼の顔が見える。

 だから、彼を見つめると、一緒に蒼汰も見つめてしまうことになるのだが。

「あんたが、よく、伊月さんをガン見してるからでしょ。

 なんか殺しそうな目でいつも見てるんだけど。

 なにか恨みでもあるの?」

 いや、愛を込めて見つめているつもりだったのだが。

 もちろん、蒼汰をではない。

「あーあ。
 私も伊月様と口をききたい。

 ってか、名前も覚えてもらってないよ、たぶん~っ」
と美晴は嘆いているが。

 いや、私はあれとはお近づきになりたくない、と思っていた。

 だって、凶悪過ぎる……。

 だが、ひとつ、気になっていることがあった。