密室の恋人

「その匂い嗅いでるとね。
 彼はとてもピュアな人のような気がしてくるんだよ」

 そうですね、或る意味。

 子供の頃、相撲で投げ飛ばされ、釣りで負けた恨みを今でも持っているような人ですから。

 弥が降りる階になったらしい、扉が開いた。

「凛子ちゃん、そのシリーズ、豚骨の方が美味しいよ」

 降り際、真剣な顔を寄せてきて、弥が言うので、なんのことかと思ったら、さっきのコンビニ限定カップ麺の話だった。

 エレベーターにまた一人になる。

 伊月さん、乗って来ないかなあ、と思っていた。

 もちろん、会いたいのは、伊月蒼汰ではなくてーー。

 凛子は誰も居ないエレベーターの隅を一人見つめた。