密室の恋人

「僕、匂いに敏感だから」

 それは嫌な男だな、と思った。

 あと視力のいい男も嫌いだ。

 特に寝不足の朝。

 気合の入っていない朝には、どちらの男にも会いたくない。

 しかし、どうでもいいけど、この人、意外に力強いな、と思っていた。

 細身で色白なのに。

「あ」
と突然、弥が言った。

「……伊月くんの匂いがする」

 ぎくりとした。

「さっき、伊月くんがこのエレベーターに乗ってたみたいだね」

 そっちかよ、と思う。

「僕、彼の匂い好きなんだよ」
と言いながら、弥はまだ抱いていた肩を放した。

「伊月さんが使ってるシャンプーとかの匂いですか?」

 エレベーターに残る程の香料のものを彼が使っているのは見たことがないが、と思っていると、

「いや、シャンプーとか石鹸とか、洗剤とか家の匂いとか、体臭とか。

 全部混ざった感じが雰囲気がいいの」
と言い出す。

 そ、そうなんですか。