密室の恋人

「いえ、まだですけど」

「そりゃ、無理だろ。
 いまどき、何処もいいとこはすぐには取れないし」

「だから、籍だけ先に入れようかと」

 ああ、と言いかけた先輩の言葉を押しのけて凛子は言った。

「えっ。
 嫌ですっ。

 私、式はしますよっ?」

「そうか。
 じゃあ、出来そうなところを探しておくよ」

 ああっ。
 しまった。

 結婚自体を否定すべきだったっ。

 だが、みんなの前で、蒼汰がすると言っているのに、此処で否定することは出来ない。

 さすがに蒼汰に申し訳ない気がしたからだ。

 そんなこんなで揉めているうちに、自分の降りる階になってしまったので、仕方なく降りる。

「じゃあ、昼休みに」
とまたあっさり蒼汰は言い、一緒に降りたおじさんたちに、凛子は祝福の言葉を浴びせられることになった。

「おめでとう、雨宮さん」

「おめでとう。
 また祝い取られるな~」

「俺、今月、二件目ですよー」

 そんな呑気なこと言いながら、みんな、先に行ってしまった。

 そこに、ちょうどお盆を手にした美晴が通りかかる。

「凛、遅いよっ。
 ……って、なに朝から憔悴しんての?」

「美晴~っ。
 助けて~っ」
と凛子は友に泣きついた。