「……凛子さん。
一流企業のOLさんとして、その髪は、駄目だと思うんだけどね」
朝、エレベーターで一緒になった営業の上村弥(かみむら わたる)がそう言ってきた。
ちょっと女性的だが、穏やかな物言いで女子社員に人気がある。
スーツも蒼汰のように濃い色で攻撃的な感じではなく、いつも柔らかい色合いのものを着ている。
「はあ。
昨日、なにを疲れたのか、お風呂にも入らず寝ちゃって」
といまいち、決まらなかった髪を手で撫でた。
なにを疲れたって、決まってるか、と思う。
蒼汰とのやりとりに疲れたのだ。
いきなり近づいてきた弥が凛子の髪を掴み、顔を近づける。
「なっ、なんですかっ」
と思わず、逃げかけると、弥はよろけた肩を片手で抱いて、
「カップ麺だね。
コンビニ限定の高いやつ。
夜食?」
と聞いてくる。
げ。
髪に匂いがついてるのか。
まさか、寝ぼけて、スープに髪が突っ込んだ、とか、と毛先が心配になる。



