帰り際、靴を履いたあと、蒼汰はふと思い出したように、振り返り、言った。
「そういえば、今日はキスはなしか」
お前のテンションに乗せられて、しゃべって終わった、と言い出す。
「いや、なしかって。
なんで、私に訊くんですか。
私からするものですか? それ」
と言うと、そうか、と肩をつかんでくるので、
「いやいやいや。
貴方からしてくれって意味じゃありませんよ」
と言ったのだが、結局、された。
なにかこう……私は、いろいろと言葉の遣い方を誤っているような、と思いながら、蒼汰を見送る。
もう寝よう、と思いながら、湯に浸かった。
それにしても、同じ顔なのに、全然印象が違うな、と改めて思った。
いつも穏やかに微笑んでいるあの霊の人と、カラッとした笑顔の蒼汰。
だが、蒼汰の方に、時折、影のようなものを感じることがある。
あのエレベーターの話をしているときだ。
なんなんだろうな、と思っていた。
答えの出ないことを考えているうちに眠くなり、沈みそうになる。
……いかんいかん。
また、風呂で寝るところだった。
今日は起こしてくれる蒼汰も居ない。



