仕事を始めてしばらくして、別の部署に用事があったので、凛子はエレベーターに一人乗った。
誰も居ないその密室で、隅を見つめる。
蒼汰が居ないので、今は彼の姿は見えない。
『凛子ちゃん。
君、僕が好きなの?』
彼は、優しい笑顔で無邪気にそんなことを訊いてきた。
顔はそっくりだけど、性格は正反対だよね。
っていうか、顔が同じでも、性格が違うと、あんなに印象って違うんだ。
『僕も君が僕を見て、微笑んでくれると、嬉しいよ』
『会えて話せてよかった、凛子ちゃん。
僕、君が好きだよ』
蒼汰の身体なのに、蒼汰とは全然違う口づけをする彼。
凛子は口許に指先を当ててみる。
霊なのに、蒼汰の身体を得た彼は霊ではない。
生きた人間の感触を持って、自分の前に居る。
さっき、切れかけたと思った蛍光灯は瞬くこともなく、降りる階へと着いた。