「ただいまでございます」
マンションのドアを開けると仔猫がフローリングの上を少し滑りながら飛び出してきた。
「にゃーちゃん、ただいまっ」
と抱き上げると、仔猫は、なになに? なんかくれるの? 遊んでくれるの? と問うているかのような瞳で自分を覗き込んでくる。
ああ、最高可愛い。
こうして、猫とじゃれていると、今日あった訳のわからないことも全部吹き飛んでいきそうだ。
ーーと思ったのに、すぐに、ピンポーンッと鳴る。
まさか、もう来た?
インターホンで確認すると、子供の頃から見慣れている顔がそこにあった。
『猫、返せ』
と怒鳴ってくる。
ドアを開け、凛子は言った。
「あんたが預かってくれって言ったんでしょうがっ」
同じマンションに住む幼馴染の朝田侑斗(ゆうと)だ。
可愛い顔だが、中身は男。
あまり繊細さはない。
このマンションの一階にあるコンビニの店長の息子で、本人もそこでバイトしている。
「ほれ」
と侑斗は土産を突き出してきた。
神戸の友達のところに遊びに行ったらしいのだが、その間、猫の面倒を見てくれる人間が居ないので、預かってくれと言ってきたのだ。



