密室の恋人

「……蒼汰さん、もしかして、それを確かめるために、私に近づいたんですか?」

「凛子」

 はい、と身構えると、いきなり、脳天にゲンコツが降りてきた。

「いたっ。
 なにするんですかーっ」

「お前は昨日からの話をなんと聞いてたんだ」

 キスするぞ、と脅される。

「お前がエレベーターの中でしか俺を見ていないのは知っていた。

 いや、俺じゃない。

 俺の周りのなにかを見ている」

「……わかりました」
と凛子は言い、覚悟を決めた。

 実際、もう、昨夜の蒼汰の話はしてしまっているわけだし。

「実は、エレベーターで蒼汰さんと出会うと、蒼汰さんの顔の横に、もうひとつ、違う顔が見えるんです。

 蒼汰さんと同じ顔なんですけど、いつも優しそうに微笑んでて。

 蒼汰さんとは全然違ってて、癒されるんです。

 ーーああ、すみません」

 腕を組んで聞いていた蒼汰は渋い顔をしながらも、いや、いい、と言った。

「全部聞いてから、制裁を加えるから」

 ひいっと思った。

 いっそ話が終わらないように、お伽話でも語り始めようかと思ってしまう。