月はもう沈んでいる。


自転車で片道1時間の場所にあった中学では同級生が40人に増えて、俺は少なからず舞い上がっていたんだと思う。


やっとできた同い年の男友達とくだらないことでバカ騒ぎするのは楽しかった。女の子には優しくしなさいなんて、うるさい母親も教師も中学では適当にあしらえた。


陽が嫌だったわけじゃない。陽だけじゃ物足りなかったわけじゃない。


だけど中学に上がってから俺と陽の周りは騒がしくなって、拾いきれない音たちは体のそこかしこから不機嫌に漏れていた。


「おまえは、またぁ~……」


部活を終えて駐輪場で待っていた俺は、歩み寄ってきた陽の両ひざに擦り傷を見つけ、顔をしかめてしまった。


なかなか来ないと思っていたら、また同じ部のやつらと取っ組み合いの喧嘩でもしたか。


入学したてとは思えないほど制服はよれよれで、髪までボサボサだった。


「だって、『男がスカートはいてんぞ』って笑われたら、黙ってらんねーもん!」


相当腹を立てているってことは、自転車を蹴とばしたことで伝わってはいたけれど、天真爛漫さが売りの陽に、なんて声をかけたらいいのか分からなかった。


きっと、焦っていたんだと思う。


「髪伸ばすとか、言葉遣い直すとかすれば、さ……」


ぎろり、と。眼球が飛び出すんじゃないかというほど睨まれ、言葉に窮した。


まちがったことを言ったつもりはなかった。でも陽のために放ったものではないと、見透かされた気がした。


――朔って陽と仲良いよな。

――まあ、あいつ女じゃねえもんな。

――陽とはまちがいが起きる気しねえわ。

――でも分かんねーよ? 興味本位でー……なんて、あったりして。