「キャプテン、何かいい作戦でもあるんすか?手っ取り早く逆転できるような。
早くあのピッチャーの攻略法を教えてください!」


敦士の話を待ちきれないといった様子で、途中で口を挟んできた森村。

なぜかこいつも補欠でベンチ入りしてるんだよね、ギリギリだけど。

ベンチでも邪魔になっているうるさい駄犬を、敦士は嫌そうにため息をついてからにらむ。


「アホかそんなんあるかよ。
まだ三回なのに攻略されてたら、あいつは銀月館のピッチャーやってねぇんだよ」


たしかに。

攻略法が見つかったらラッキーだけど、そう簡単に見つかるようなら、そもそも銀月館のピッチャーやろうなんて無理な話。


「えー?じゃあ、」

「うっせえ!今俺が話してんだよ!
文句あんなら、ベンチから出てけ」

「すみませんでした!」


敦士の至極全うな正論にもしつこく食い下がる、運動部の上下関係を理解してない常識知らずの一年に、容赦ない敦士の怒声が飛び、ようやく黙る森村。


もう、いっつもこうなんだから。

うちらが引退したあとが不安。


森村が静かになったあと、仕切り直すかのように敦士はひとつ息を吐いた。


「手っ取り早く逆転できる攻略法なんてねぇよ。
そんなんあったら、野球なんて面白くねぇんだよ。

とにかく、ボールに食らいついて、粘り強くいこう。
しっかり打って、しっかり守ろうぜ。以上!

絶対勝つぞ!」


それしかないよねぇ。


成田先生も選手時代に甲子園経験あるっていっても、監督としては全くの未経験。

星が丘が甲子園にきたのも初めて。

つまり他の出場校にあるような、甲子園の必勝ノウハウなんて、うちには全く存在しないんだから。