あたしが言葉に迷っている間にも、数歩歩いていた秀がその場で足をとめて、こちらをふりかえる。


「さっき、一輝くんは勝てないって言ったけど、みどりのことだけだよ。野球では俺の圧勝だから。

明日の試合も負ける気しない。
俺が、俺たちが勝つよ」


いつものようにムカつくことを言いながらも、真剣そのものの目で勝利宣言をしてきた秀に、なんだか複雑な気持ちになった。


「うちだって、負ける気なんてないよ。
でも......、がんばって、秀。負けないで」


勝ってほしいのは当然うちのチームだし、恋人の一輝くんを誰より応援してるし、負けてほしくなんかない。

だけど同じくらい、幼なじみの秀が負けるところも見たくなかった。


単純に、どっちに勝ってほしい!とシンプルな気持ちで応援できたら、もっと簡単だったのに。

裕貴と甲子園で対決する約束をしたときは、打倒銀月館に燃えていたのに、いざ試合が明日に迫ってくると、もっと色んな気持ちが浮かんできて、消せなくて、頭の中がぐちゃぐちゃ。


「......うん」


真剣な表情で一言だけそう言って、公園から去っていく秀。

その後ろ姿が小さくなって、ついには見えなくなっても、しばらくの間、ひとり暗闇の中で、あたしはそれをただじっとみていた。