「......ねぇ、やっぱり先生に言った方がいいんじゃない?」

「先生に?これくらいのことで?
言ったってどうにもならないよ。殴られたわけでも、ひどいイジメにあったわけでもないし。
あたしのこと嫌ってるやつがいたとしても、どうせ今回みたいな地味で陰険な嫌がらせしかできないよ、大丈夫」


あたしの肩をつかんでいたみのるの手がいつのまにか二の腕をつかんでいて、真剣な表情で訴えられたけど、あたしはそれは全く考えてない。


「それに、今は大事な大会前だよ?
ここで何か問題起こして、先生たちに目をつけられたくない」


それが加害者ではなく被害者の立場だとしても、目をつけられることには変わりない。

ただでさえ、野球部はまだまだ実績もない状態で不安定。
大会前にもめ事を起こして、野球部自体のイメージも下がるような事態だけは避けたい。


「でも、」

「あと一年もないんだよ?
みのるだって、分かってんでしょ?
一輝くんには再来年もあるけど、あたしたちには今回の大会は残り少ないチャンスなの」


あと一年もないうえに、この秋の大会が終われば、野球にとって長いオフシーズンに入る。だから実質試合をできる期間はもっと短い。

この秋の大会を逃せば......。

あたしの言いたいことが伝わったのか、みのるはあたしの二の腕をつかんでいた手をすっと下ろして、目を伏せた。