「しかし、母に新しい恋人が出来た頃でした。父から僕を後継者として欲しいと代理人を使い連絡が来たのは。本妻との間に中々子供が出来なかった父はもしかしてと、母の事を調べたそうです。」
砂場に公園内にいる人達全ての視線が集まった時、どうやら子供の父親らしき人が手にジュースを持ち、現れた。どうやら子供の為に飲み物を探しに行っていたのだろう。
「僕は簡単に手放されました。母に。何かと都合が良かったんでしょう。その日から会社を経営する父の元で跡取りとしての教育が始まりました。ちょうど僕が5歳の時でした。」
さっきまで泣いていた子供は父親からジュースを受け取るとそのまま肩車され、すっかり機嫌が治ったようだ。
「それからの生活と言うのは、子供だった僕に取って地獄の様でした。後継者にするべく教育係による厳しい躾、そして継母の僕に対するキツい態度。それは自分をいとも簡単に手放した母親の元に帰りたくなるくらい僕に取って辛いものでした。」
父親が来るまで子供の側で泣きそうな顔して立ち尽くしていた母親も夫と子供の姿を見てすっかり表情が和らいでいる。
「僕が中学生になった時、それまで出来なかった子供が父と継母の間に生まれました。その日から僕はまた厄介ものとなりました。」
私と課長の視線の先には穏やかに休日を過ごす親子三人の姿がそこにあった。さっきまでの状況が嘘みたいに。



