Tell me !!〜課長と始める恋する時間

「僕の母親はホステスをしていました。」


公園のベンチに座り、課長の話を聞く。


日曜の午前中という事もあり、小さな子連れのお母さん達や、小学生くらいの子達がチラホラと公園内で遊んでいる。


「母が勤めるクラブにたまたまやって来た父は母を気に入り、直ぐに二人の関係は始まったんです。」


子供達が楽しげにはしゃぐ声が高々と晴れ渡る空の下、公園内に響く。


「父は既婚者でしたので、いわゆる愛人関係にありました。それは暫く続きましたが、やがてーーー」


ーーー僕が母のお腹に出来たと同時にその関係は終わりを迎えました。


課長の口から放たれる現実味の無い話を私はどこかぼんやり聞いていた。どんな顔をして聞き、どんな風に受け止めれば良いのか分からなかった。


黙っている私に課長の言葉は続く。


「腹の子は処分しろ。それを条件に母親はまとまった手切れ金を父から貰ったそうです。」


私達の視線の先にある砂場で3歳くらいの子が何やら思うようにいかないのか大声で泣いては側にいる母親を困らせている。


「結局、母はその約束を破り父には内緒で僕を産みました。母なりに母性が生まれたのでしょうけどその先にあるシングルマザーとしての人生は母にとってとんでもなく厄介なものでした。」


砂場では相変わらず、子供が泣いている。ぼんやりとその光景を見ながらも課長の声が耳に入ってくる。


「それでも父からの手切れ金で小さなスナックを始めた母は僕を育てながらも店を切り盛りしてました。」


砂場で泣く子供の母親は側で途方に暮れていた。その母親に誰一人として声を掛ける人もいない。


「母が店を始めてから僕は夜間もやっている託児所に預けられました。人見知りだった僕は馴染めずそこにいるのが嫌でした。それでも夜遅くに酒と煙草と香水の香りを交わらせた母親が迎えに来ては、うとうと眠る僕を抱きかかえてくれるのが子供心に嬉しかったのを覚えています。」


砂場で未だ泣く子供と途方に暮れる母親に周りの視線が徐々に集まる。口々にどうしたんだろうねと言いながらもその親子に近付く人は誰もいない。


その母親が私達に干渉しないでと無意識に張っているものなのか、周りの人達が見てみぬフリを決め込んで張っているものなのか


私には透明の境界線がハッキリと見えた気がした。