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「夜分に申し訳ありません。」


「いいえ、いつも娘が送って頂いてるみたいで。ありがとうございます。さぁ、外寒かったでしょう。飲んで温まってくださいね。」


そう言ってリビングに座る課長にお茶を差し出すお母さん。


駄目だ。お母さんの課長を見る目が完全にハートになってる。


そして課長の目の前には何やら無理からに難しい顔を作ったお父さんが。


終わった…


全て終わった…


遂に嗅ぎ付けられた。


課長の存在に気付かれた。


浮かれてたぁ。


なんで駅前か家の手前で降ろして貰わなかったんだろう。


課長に家の前まで送って貰い、お礼を言って車から降りると弟のマサルが玄関先にタタタと出てきた。


「姉ちゃん、パピーとマミーが上がって貰えって。」


「はっ?な、何言ってんのよ。」


「マミーがお茶くらい飲んでってくださいって。」


「良いって、課長、まだ仕事残ってるんだし。ねっ、もうこんな時間で遅いじゃない。課長、気にせず早く車出してください。」


運転席側に回り込み課長に車を出すよう急かす。すると、


「うちの茶は不味くて飲めんのかぁ?」


あちゃぁ、凄い勢いでお父さんまで出てきたよ。しかも若干、キャラ変わってる。


仁義なき戦いのDVDでも見たか?


「お父さん、何言ってるの。課長に失礼でしょ。送って貰っただけなんだから。変な言い掛かりつけないで。」


慌てて課長を見ると、運転席の窓をスーっと開け、


「車ここに停めさせて頂いても宜しいでしょうか?」


とお父さんに聞いた。


えっ、車停めるの?って事は降りる?


お茶、飲んじゃう?うちの家で?


それは何としてでも阻止せねばっ。


「課長、うちの父親が今、言った事は忘れてください。気にしちゃ駄目ですよ。ねっ?」


「女は黙ってろ。俺は課長さんと話してんだ。」


お父さん、もしかして飲んでる?


「ちょっと、そんな言い方ないでしょ?本当に課長、まだ仕事があるんだってば。それに何時だと思ってんのよ。こんなとこで騒いでたらご近所にも迷惑だよ。って課長、何、どさくさに紛れて車から降りてんですかぁっ。」


私とお父さんが話してる間に課長は車をさっさと寄せて停めると降りてきた。


「こんな時間にお邪魔させて頂いて本当に宜しいでしょうか?」


「おう、遠慮はいらねぇよ。」


肩で風切って前を歩くおとうさん。


やっぱり仁義なき戦い見たな、この親父。


はぁ、最悪。


もう、知らないからね。


この先、どうなっても私、知らないからね。