「ただいまぁ、お母さんいる?」


玄関先で言っても返事もなく、そのままリビングに入っても誰もいなかった。


何となくホッとする。


出掛けにマサルがあんなLINEを送ってくるくらいだし、きっと質問攻めに合うに違いない。


本当に仕事だったのか?って。


とりあえず、ソファに座って一休みする。


あの後、案の定、夜はもう何も食べる必要がないのでこのまま帰ると言う課長に真っ直ぐ送られる事に。


そりゃ、今日は仕事で来たんだって事を十分に理解したけど早めに終わったんだからもう少し一緒に過ごしてもいいんじゃないの?


仮にも付き合ってるんだし。


付き合ってるよね?


なんか未だその感覚が全く持てないんだけど。


こんなんじゃ3ヶ月後に望みないなぁ。結局、振られるのか?いや、まだ決まった訳じゃないし。既に折れ掛かっている心を奮い立たせる。


帰りも課長は家の前まで送り届けるといってくれたけど頑なに拒否り、朝と同じ駅前のロータリーで降ろしてもらった。


もちろん、それには理由があって、うちの面倒な家族と顔を合わせたく無いのもあるけど、ちょっと寄りたい所が出来たから。


車から降りる前に、連絡先、聞かなきゃと思って課長に話したらーーー


「それは何か緊急の場合を想定しての事ですか?」


と返ってきた。


「えっ?」


「会社で毎日顔を合わすのだから必要あるのかと思いまして。」


まっ、予想通りと言えば予想通りの返事だけどね。


それでもめげずに


「あります!必要、ありまくります。付き合うならいつなん時も連絡を取れる状態にしておく必要がありますっ。」


「例えば?」


「いや、例えばって……そうだ、休みの日に会う約束とか。」


「それなら会社でーーー」


「他の人達の目もありますからっ。」


「それが何か問題でも?」


はあ?


「そりゃ、私と課長が特別な関係だと周りが知れば気を使うじゃないですか。」


「どうして?それにまだ僕と桃原さんとは特別と言えるような間柄でもありませんし。ああ、でもキスする間柄ではあるか。」


あー、もぉ、なんでこの人はこうなのかな?て言うか課長、完全に面白がってますよね?


ほんの少し口角が上がってるもん。


「とにかく、緊急を要する時に必要なので教えて下さいっ。」


最後は強引に丸め込んだ。なんだか、飲み屋のオネエチャンの電話番号を必死に聞き出そうとするおっさんの図じゃないか。


その後、課長と別れた私は家に真っ直ぐ帰らず駅前の少し大きめのスーパーに行き、2階にある雑貨コーナーにて目当てのものを探す。


迷った挙句、比較的シンプルなものを選ぶとそれを買って帰った。


そして、今漸く、家に着いたという訳。