課長を待たせる訳にいかないから駅への道のりを急ぐ。


するとバックの中でピンポンとLINEの音が響く。


見なくても何となくわかる気がする。


だけど読まないといつまでも送ってくるので歩きながらスマホをチェック。


ご近所のおばさんから、ながらスマホをする私に冷たい視線を頂く。


笑顔で何とか交わし、スマホを見るとやはり弟の優(まさる)からだ。


ーーーー姉ちゃん、洒落込んでどこ行くん?


相変わらずユルユル大学生めが。


ーーーー仕事。遅くならないと思うけど、もしかしたら晩ご飯要らないかも。お母さんに言っておいて。


一応、そういう事も想定しておかなきゃね。


ラジャというスタンプとともに、


ーーーーデート頑張ってねぇ♡


いや、だから仕事だってば。


まぁ、今はマサルなんかに構ってられない。


早めに出掛けた事もあり、約束の10分前にロータリーに着くことが出来た。


仕事とは言え、マサルが洒落込んでとか言うから妙に緊張してきたじゃん。


あっ、それよかあいつ、お母さんに余計な事、言わないよね。


私が仕事なのにお洒落してたとかって聞いたら、それこそ後で何を言われるやら。


そんな事を心配していると見覚えある国産ハイブリッドが私の目の前に停まる。


課長だ。


「お、おはようございます、課長。」


「おはようございます。ところで桃原さん、その格好で行くつもりですか?」


運転席から一旦出てきて課長が言った。もちろん。課長はいつもながらビシッとスーツを着こなしている。


駅前と言う事もあり、既に周りから注目を浴びている。


「えっ、この格好駄目でしたか?」


「まぁ、いいでしょう。時間がありませんので直ぐに乗ってください。渋滞に巻き込まれるといけませんので。」


課長は私に目を向けることなくそう言うと腕時計をちらりと見てからまた運転席へと座った。


私も急いで助手席に座りシートベルトを付ける。


課長、何かイライラしてる?


私の服装がいけなかった?


やっぱり少しスカートの丈が短かっただろうか。


そうだよね、休日とは言え、仕事だもん。


もしかしたら取引先の人が沢山いるかもしれないし。もっとTPOを意識するべきだった。社会人として恥ずかしいよね。


バカだな私、浮かれてた。


今から家に戻って着替えたいけれど、そんな時間もないし…。


私はその後もただ黙って助手席で座ってるしかなかった。


そして目的地に着くまで課長がこちらを見ることもなく、話し掛けてくる事も一度もなかった。