席に戻ると乾くんが心配顔で聞いてきた。


「桃原さん、大丈夫でした?」


心配顔の乾くんも中々、イケるねぇ。癒やされるわって、そうじゃなくて。


「えっ、ああ、うん。大丈夫…かな?」


「フッ、俺が聞いてるのにかなってなんだよ。」


「ああ、そうだよね。ちょっとミスしてた所の事でお説教受けてた。」


上手く答えることが出来ているだろうか。


そっか、これから課長と期間限定とは言え付き合うんだよね。


もちろん、こんなワケありの付き合いなんて誰にも言える訳ない。


課長と私の秘密?


秘密かぁ。


その響き、素敵かも。


よーし、クリスマスに向けて先ずは目の前の仕事を片付けなきゃだな。


あっ、そういえば…


「ねぇ、さっきクリスマスがなんかって言ってなかったっけ?」


確か課長に呼ばれる前、乾くんとそんな話をしてたような。


「ああ、それまたで良いです。何か桃原さん今、テンパってて大変そうだし。」


いつもと変わらぬ爽やかな笑顔を振り撒く乾くん。


この差は何なんだ。


私の後に続いてミーティングルームから出てきた課長にそっと目を向ける。


うわっ、いつものクールな無表情に戻ってる。


ひゃっ、しかも今、こっち見た?


なんだろ、普通だと好きな人と目が合って嬉しい瞬間なのに体が石のように固まっていくのは…。


いやいや、これくらいではへこたれないのが私じゃない。


一度進みだしたらもう後には引けない。


前進あるのみっ。








この頃の私はまだ何も知らなかった。


課長の事をあまりにも知らなすぎた。


課長が言ってたあの言葉の重みを。


私は何も分かっていなかった。