「うわっ、課長、な、な、何するんですか、いきなり。」
唇は一瞬で離れたものの動揺が隠せない。
つい、予想外に大きな声が出て慌てちゃったけど、このミーティングルームがそこそこの防音になっている事を思い出しホッとする。
「いきなりもなにも、桃原さんが昨日のをもう一度って催促するものですから、僕はそれに従ったまでですよ。」
なんでもないかのようにシレッという課長。
「わ、私はっ、昨日残業で何かミスでもあったのかと思ったんです。なのに課長、呼び出しておいていきなり…こんな事。」
「こんな事って、ああキスですか。嫌だった?」
と、また顔を近付けてくる課長。
「嫌…とかそういう問題ではないかと。」
だから、近いってば。
「では何が問題なんです?だけど好きな人とはこうあるべきなんでしょ。互いの距離を縮めるという桃原さんの定義によると。」
「定義って……。」
「僕なりに桃原さんの意見を尊重してるんですよ。」
そう言うとまた私の頬に指を這わせスッと顎先へとそのまま滑らせてくる。
さっきから私の心臓は忙しく動きっぱなしなのに課長は余裕の顔してる。
なんか悔しい。
「それで、昨日の返事は?やっぱり自信ないんじゃないの?僕を本気にさせるなんて凄い剣幕で言ってたけど。」
「昨日の……返事ですか?」
そうだった。
一晩、考えさせてほしいって言ったんだ。
それで私ーーー
決めたんだった。



