「桃原さん、具合い悪い?」
「えっ、なに?」
「顔が赤いですよ。熱でもあるんじゃないんですか?」
隣からこっそり話し掛けてくるのは今年このマーケティング部に配属された乾(いぬい)くん。
元は企画営業部にいた乾くんだけど、その実績と冷静な判断力を買われ入社三年目にしてこの部署へと配属になったのだ。
私より一年あとに入社の乾くんは今年確か25才。
私とは年齢が近い事や学生の頃、お互い同じバレー部に所属していた共通点もあり何かと気さくに話し掛けてくれる。
笑顔が似合ういかにも体育会系の爽やか青年。
見た目も課長とは対象的な柔らかい印象を持っていて、身長は元バレー部だけあって課長よりももう少し高いけれど、髪は自然な栗色で癖があるのか毛先がくるんと跳ねているのが可愛かったりする。
男の子にしてはまつげも長く目鼻立ちも整っていて羨ましいくらい綺麗な顔だ。その上、仕事も出来るとなれば社内での人気は中々のもの。
スノーマン三鬼に対して真逆を行く乾くんは完全なる癒し系、まるで太陽の様なイケメンなのだ。
まぁ、その2TOPがどちらもうちの課にいるっていうのが凄いけど。
「ううん、なんでもない大丈夫。寝坊しちゃって慌てて走って来たからかな。」
まさか課長とのキスを思い出して赤面してましたとは言えない。
「ならいいんですけど、無理しないでくださいね。昨日も遅かったんですよね。スイマセン僕も残れたら良かったんですけど。」
「そんな事ないよ。昨日は乾くん元から直帰だったじゃない。」
乾くんは昨日は別件で日帰り出張をしていたのだ。遅くなることもあり、元から直帰となっていた。けれどちょっとした気遣いが嬉しい。こういう所も彼が社内でモテる理由なのかもしれない。
それに引き換え……
「はぁ……。」
課長は数分前と全く変わらない状態だ。
動くのはキーボードをカチャカチャと叩く手ばかりで他は眉一つ動く気配がない。



