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「まぁ、なんて言うか…世の中、何があるか分かんないよねぇ。」


雉原さんが老舗ブランド浪花屋から取り寄せた柿の種をポリポリ食べながら呟く。


その手は一定のリズムで動いていて全くペースが落ちない。


「はい、私も課長もこんな結末になるとはあの時まで思いもしなくて。」


柿の種をビニール袋に入れ、クラッシュしながら答える私。


そう、私と課長はあの日、課長のお父さんに会いに行った。課長が家の為に結婚する事は出来ないと伝える為に。二人揃ってお願いしに行ったのだ。


すると、そこには先客がいて、それは援助話を持ち掛けてきた社長とその娘である課長の婚約者、そしてーーー


課長の腹違いの弟さんがいた。


課長もその場で初めて知ったそうだけど、婚約者が言う心に決めた人とは弟さんの事だったのだ。


「それで、弟さんと婚約者は上手くいきそうなんですか?」


と、チョコレートを湯煎しながら乾くんが聞いてくる。


実は課長の腹違いの弟さんと婚約者はお互いに惹かれ合っていて、密かに付き合っていたらしい。もう何年も。


その事実に課長も私も相当、驚いた。


だけど、もっと、驚く話が。


「まぁ、そりゃ、孫が出来るとなればさぁ、やり手の経営者もただのジジ馬鹿だよね。」


雉原さんが熱い玄米茶を啜りながら言う。


そう、驚いた話というのは、私よりもずっと大人の女性に見えた婚約者、23歳のお腹には新しい命が芽生えていたのだ。


もちろん、父親は課長の弟さんだ。


と言っても19歳の現役大学生。


学生の身である弟さん、そして縁談話がどんどん進む婚約者。


若い二人は悩みに悩み、そして全てを互いの親に打ち明けたのだ。


もちろん、それぞれの親は猛反対だ。