「女ってやっぱり強いわよねぇ。」


お隣さんから頂いた草加煎餅を囓りながらお母さんが言う。


今、私はお母さんとリビングにて撮り貯めしていた愛の稲妻を見ている所だ。


「でもさぁ、タケシがちょっと優柔不断だよね?だって、雅美との恋は終わりにして優香との恋に走ったんでしょ?なのにやっぱ雅美が良いとかさぁ。勝手すぎるじゃん。」


と私もボリボリと二枚目の草加煎餅に手を出す。


「お茶、淹れようか?」


お母さんがそう言ってキッチンに向かった。


平和だな。


休みの午後に母親と録画しておいたドラマを見てあーでもないこーでもないと煎餅囓りながら話してるなんて。


ほんと、強いのは女性かもしれない。


あの日、課長に別れを告げたものの私は会社を休む事なく通い続けている。


正直、課長の姿を見て普通でいられるだろうかと不安だったけど思ってたより私の心臓は強いらしい。


寧ろ、課長の方が明らかにやつれている気がして少し心配でもある。


「それにしても優柔不断なタケシも良いわよねぇ。母性本能擽られちゃう。あんな風に弱い姿を見せられたんじゃ何でも許しちゃうわよ。」


お母さんが毎度ながらのうっとり顔で言う。


いつもと変わらぬお母さん。


弟はいつものようにフラフラとどこかへ出掛け、お父さんはきっと今頃、近所の体育館で仲間と卓球でもしているのだろう。


いつもと変わらぬ休みの午後。


いや、違うな。


敢えて、いつもと同じ様にみんなしてくれているのだろう。


さすがに飼い犬のポロンはそんな事ないだろうけど、やはりいつも通り自分の寝床で居眠りしている。


そう何も変わらない。


ずっとずっと何も変わらないこの光景。


ただ、変わったのは誰も課長の名前を出さなくなった事。