Tell me !!〜課長と始める恋する時間

えっ？


普通の付き合いって…そりゃ


「色々とあるじゃないですか。」


「桃原さん。」


「はい？」


課長は大きな溜息を吐くと呆れた顔で言い出した。


「桃原さん、色々と言う言葉は実際は何も知らない人間が使う体(てい)の良い常套句だと僕は常日頃より思っています。僕はそういう曖昧な表現は嫌いです。」


確かに仕事に対して妥協を許さない課長はよくこういう事を言う。


「それで、君の言う、色々とは？」


信号が赤になり、ずっと前を向いていた課長が急にこちらを向いた。少し口角が上がっている所を見ると試されてるのかもしれない。


直視してられなくて課長から慌てて目を逸らし前の信号を見詰めたまま答える。


「普通の付き合い…って。私ならまず好きな人の側にずっといたいって思います。相手の事をたくさん知りたいと思うし、だから映画にしたって遊園地にしたって一緒に過ごすその時間を楽しむ事で分かりあえるというか。お互いの距離を縮めたいです。」


思ったより信号が中々青にならなくて、隣から突き刺さる課長の視線を感じる。


「距離を縮めたいね。それが君の言う普通の付き合い？一緒に出掛けることが？」


「別にそればかりじゃないですよ。どこかへ出掛けなくてもただ側にいるだけでも十分ですけど。」


「側にいるだけ？」


漸く信号が青になり車はスッと動き出した。


「好きな人の側にいるだけで幸せじゃないですか。」


「幸せ…僕には分からないな。」


そう言った課長の横顔は少し寂しげだった。


その後は何となく沈黙になってしまったけど、それ以上、私も課長も何も話さなかった。　　


そして課長のスムーズな運転により車はあっという間に家に着いてしまった。